(仮)川は流れるように: 6.流れのない川

遠くを見ている赤鬼
駆け込んでくる真田

真田「どう!?大丈夫?」
赤鬼「おす、みんなそれぞれ抱いて連れて行ってもらえたっす!」
真田「よかった…」
赤鬼「子供は戻る力が強いから、あの子らがいればむしろ安心っす」
真田「そうだね。しかしあれって……晩夏さんだよね?」
赤鬼「いやー確認中だけど、それしかなくないすか?」
真田「だよね…」
赤鬼「各地獄の消防隊が集結して全力で鎮火活動に向かってるって」
真田「あったんだ、そういうの」
赤鬼「地獄で結構火使うから、広がらないようにちゃんとしてるんす」
真田「そっか…あーなんだよかった〜、じゃあこんなに騒ぐ事なかったか。もうどうなっちゃうかと思ってなんか勝手に大騒ぎしちゃった、よかった〜。私なんの権限もないのに、あとで怒られるよ」
赤鬼「いや、前代未聞でやばいのはやばいっす。全隊集結とか」
真田「でもこんな川が浅くなるくらい給水して火消しにあたってくれてるなら、どうにかなるっしょ!」
赤鬼「なに、いってるんすか」
真田「え、ほら、」
赤鬼「川、っすよ…こんな、減るわけないじゃないすか」
真田「すごい勢いで吸ってるんじゃ」
赤鬼「それにしたって。晩夏さん…火を放つだけじゃなかったの」
真田「……あーーーーーーー!」
赤鬼「っなんすか!」
真田「川が!!川の水、全部抜かれるかもしれない!!」
赤鬼「だから、今それを話してるんじゃないすか、なんだこれ、もうじき川底が出てきちゃう、給水止めないと元に戻せなくなったら」
真田「あの、給水のせいだけじゃ、ないかもしれなくて」
赤鬼「やっぱり晩夏さん、」
真田「じゃない人かもしれなくて」
赤鬼「ハァ!?あんな魔導師みたいなのがまだいるんすか!」
真田「いや、そんな大層なもんではなくて、ちょっとしたイタズラだとおもうんだけど…」
赤鬼「なにいってんすか」
真田「ごめん…」
赤鬼「なにが起きてるんすかこれ…川の水がなくなったら、あの火はどうすれば…こっち側の人たちは避難できたけど、もう向こう渡っちゃって裁判待ちの人とか、ほんとに大丈夫なのか…」
真田「そうだよね」
赤鬼「ていうか、地獄は?今どうなってんの大丈夫なの」
真田「うん」
赤鬼「え、てか…閻魔様は?晩夏さん、まさか、そんなことしないよね」
真田「え…」
赤鬼「晩夏さん、まじかよ…なんで?まさかこんなことになるなんて」
真田「まだ、晩夏さんがやったって決まったわけじゃ」
赤鬼「やるって言ってたじゃないすか!でもほんとにやるなんて!」
真田「まあ、それはそう」
赤鬼「これじゃ地獄はめちゃくちゃだ。地獄の人たちはどうなるんだ。てか俺は…手伝えなくなったら、もうイッショー人間には戻れないのか」
真田「赤ちゃん…」
赤鬼「もうだめだ。こんな、三途の川まで干上がって。地獄はこれでおしまいだ。もうこの世の終わりだよ」
真田「…」
赤鬼「……あの世の終わりでした…」
真田「うん…」

真田「暗くなってきちゃったね…はは、さすがにいつもより怖いな」
赤鬼「はっ、晩夏さんすげえっすよ。地獄より地獄み溢れてる。あの人こそ鬼、地獄の破壊者じゃないすか」
真田「……見て、でも星は綺麗だよ」
赤鬼「…そっすね」
真田「こりゃ今夜のかき星は、格段に美味しそうだなあ…」
赤鬼「何を呑気な」

晩夏『星を見るたび、憶いだせ』

真田「私たちはなんでここに居たのかな?」
赤鬼「こっちが聞きたいっすよ」
真田「私たち、大事な何かを忘れてる?いや、忘れてるんじゃない思い出せること。わかったつもりで気付いてないままだったこと、憶いださなきゃいけないのかも」
赤鬼「こんなぐちゃぐちゃのさなかに?もう多分これ終わるやつですよ」
真田「この三途の川は結局なにで出来てどうやって始まってたのか、私たち考えたことあった?私はなかった」
赤鬼「何って…川は川でしょ。人は人、鬼は鬼みたいな。」

秋『お姉さん、川の始まりです』

真田「始まりをちゃんと知らずに目の前にどーんとあるもの、どういうものかちゃんとわからないまま有難がって、なくなりそうになったらどうにも出来ないでいるんだよ」
赤鬼「だってどう考えても大事でしょ!自然物なだけでも大事だし、三途の川っすよ!人智を超えたものがこんなになって、一体どうしたら。人だって鬼だってこうなったら無力っすよ!」

秋『私、本気です』
晩夏『私が本気だからだ』

真田「赤ちゃん、私たちこの川を引き返そう」
赤鬼「えぇ…俺たちが二人で戻るってことっすか???」
真田「いや、違う…。私たち二人で、三途の川を遡ろう!!」
赤鬼「遡ってどうするんすか、もう向こうにすら歩いていけちゃうんすよ」
真田「赤ちゃんしっかりして!本気の力で負けちゃダメ!
人間に戻るの諦めちゃだめ!赤ちゃんの本気の力をちゃんとみなぎらせないと!
私たちが、三途の川を引き直そう!意味を知り直して、私たちが本気になって力を合わせれば作り直せるかも。
はるのレゴと一緒、晩夏さんは壊しに来てくれたのかもしれないよ!
ね!閻魔様にも晩夏さんにも会いに行こう!
本気ならできるよ!
新しい地獄をまた始めようよ!」
赤鬼「姐さん…」

晩夏『星を見るたび、憶いだせ』
晩夏『私が本気だからだ』

赤鬼「そういうこと、か」
真田「That’s what I’m talking about!」

二人のストップモーション。
BGM高まってゆっくりと暗転。
fin.