真田、きょろきょろしながら妙な愛想笑いを浮かべ、ちょこちょこと会釈をしている。
首から下げた箱にはかき星が入っている。
真田「あ、どうも…ども…お舟待ちの間にかき星いかがですか、お一人おひとりそれぞれの生まれ星によって味が変わる美味しいおやつです、テイクアウトもやってます…ども…今ならお席あります、ハイ…」
赤鬼と冬香入ってくる。
赤鬼「姐さ〜ん」
真田「おつかれー。お客さん?連れてきてくれたの」
赤鬼「ええまあ、うち事務所とかないんで、ちょっといいすか」
真田「はいもちろん。ここどうぞ。お飲み物何にします?」
冬香「どうも〜」
赤鬼「俺いつもので」
冬香「じゃあぶどうジュースと〜かき星?ください」
真田「追加で練乳つけられるけど」
冬香「あ、いります」
真田「はいはい」
赤鬼「こちら冬香さん。実はこの人、迷子みたいで」
真田「まいご?」
冬香「やめてくださいよ〜親を探してるだけです」
赤鬼「そういって賽の河原に来たもんで、困ってとりあえずここに」
真田「でっかい迷子だ。はいぶどうジュースとかき星、お茶」
冬香「ありがとうございます〜」
赤鬼「どもども」
真田「親御さんと亡くなったの?」
冬香「厳密に言うと向こうは長いこと意識不明で死んでなくってー」
赤鬼「まだ戻れる人かーお父さん?」
冬香「ママです〜」
真田「そうかー…」
間
冬香「1回思いっきりビンタしてやりたくって~」
真田「ブフッ」
赤鬼「まさかの動機」
冬香「えーいやあ〜、ちっちゃい頃からビンタされまくってたし、自分が死ぬまでにいつかケンカしてやり返してやる!って思ってたのに、勝手に先に倒れちゃって、ずーっと寝てるんですよ。寝てる顔ひっぱたけないじゃないですかあ」
真田「ああ…」
冬香「看護婦さんたちもいるしぃ」
赤鬼「そういう理由?」
冬香「それにねーぶっちゃけ病院もすんごいお金掛かって」
赤鬼「まー生きてるとなんでもコレだもんなあ(お金ハンドサイン)」
冬香「ママの彼氏が社長と一緒に、やっぱりAV出よう良い機会だからって迫ってきてさ〜、なんかもうめんどくさくなっちゃって♪」
赤鬼「えっえっ…」
真田「なにそれ」
冬香「あ、私子供の頃から芸能活動してて〜。ちゃんと事務所に所属してグラビアだけじゃなく握手会とかイメージDVD出したりしてたの」
赤鬼「子役だったんだ」
冬香「ママが女優になりたかったから私も子役で始めたんだけど、フユたんは可愛い系だから売れてからお芝居すればいいし早くテレビ出られるようにアイドルで売り出しましょうってなってー」
赤鬼「やったじゃん」
冬香「ねー。そしたら知らないおじさんたちに毎日だっこされたり、水着の写真とかビデオ撮られたりしてー。泡だらけにされてさー(笑)」
赤鬼「ちょっと待てよ、なんだそれは」
冬香「ウケるでしょ、でもコドモのアイドルでそういうジャンルで。別に嘘言ってないの。しいて言えばテレビ出られないだけ」
赤鬼「いやいやいや、親止めろよ」
冬香「ママは、下積みだから頑張ってって。でもパパとケンカすること増えて離婚しちゃった」
赤鬼「はあぁ?」
真田「そんな状態なら親権はお母さんにいかないでしょう」
冬香「パパはもう実家ないし仕事忙しくて一人で子育てなんて無理だろうし、私がしてることは世間的には芸能活動の一環だからってさ」
赤鬼「どう考えてもおかしいだろ」
冬香「守ってあげられなくてごめんって泣いてるパパみて、つらかった〜。私平気だよ!っていうと余計泣いちゃって、私こんなにパパを泣かせることしてるの?ってよくわかんなくなった」
真田「仕事、辛くなかったの?」
冬香「よくわかんない(笑) ママは喜んでたし」
赤鬼「いやいや、俺ひとんちのお嬢さんでも聞いててつらいわ。え、いくつ頃?」
冬香「芸能活動はずっとだけど〜離婚したのは7歳かな?」
赤鬼「河原のガキ共と一緒じゃねえか…大丈夫だったのか、その、撮られるだけだった、のか」
冬香「あ〜ね〜、抱っこされたり、膝に乗ってカラオケとかめんどくさかった」
赤鬼「気持ち悪りぃよ」
冬香「いや〜それより離婚後は生活厳しくなって、ママが個人撮影の仕事受けてくるようになって、それがやばかった(笑)
事務所通さないからギャラはいいんだけど、事務所の大人もいないし、最初は向こうが押さえたスタジオとかだったんだけど、段々個人宅とかになっちゃってさあ」
赤鬼「そんなとこ行くなよーー」
冬香「あはは」
真田「大丈夫だったの」
冬香「今生きてるし!あ、生きてなかった(笑) ぶっちゃけよく覚えてない(笑) だから大丈夫だったんじゃないかな」
赤鬼「それ、大丈夫じゃない時のやつだぞ…」
冬香「気にしてないから忘れちゃったんだよ♪」
それから何年も経ってるしーだからその時のことはそんなに気にしてない。それより私が育っちゃってさ」
赤鬼「よかった」
冬香「いやーきついよ、老化だ劣化だとか言われて(笑)」
赤鬼「はあ!?今だって全然若いだろ」
冬香「中学入ったら顔立ち変わったってファンが離れちゃってさ〜、ママは『顔付きがパパに似ちゃった』って言うし」
真田「思春期か…」
冬香「そー。残ったおじさんたちに『生理が来たらお祝いしようね』って言われてた」
赤鬼「……えっえっ、どうなん、ど……え、キモいんだが」
冬香「あはは、ママが取り仕切ってお赤飯パーティーしたよ。
チェキいっぱい売れて喜んでた」
赤鬼「ババア!」
真田「落ち着いて…」
冬香「あははは、いいよいいよ(笑) え〜鬼さんめっちゃリアクションいいから言っちゃおうかな」
赤鬼「えぇ…」
冬香「芸能人てファンサービスで、みんなと一緒にツアー旅行に行ったりするのね。一緒にバスで移動したり美味しいもの食べたり。
それで温泉にいって〜〜、みんなと混浴入った」
赤鬼「は!?うそだろ!?」
真田「どうしてそんなこと」
冬香「混浴はコースに入ってるけど、私はもう中学生だし入らない予定だったんだけど。皆やママたちがずーっと『フユたんは恥ずかしくて入れないよね〜』っていじり続けてくるから、めんどくさくなっちゃって、入ったろーと思って〜(笑)」
赤鬼「なにしてんだよ!」
冬香「あはははは!いやー入ったらどんな顔するかなって」
赤鬼「あれだよな、水着とかタオルとかで隠して入るやつだよな」
冬香「ないない。だから隠して恥じらってるのを笑われるのもムカつくから、一切隠さずすっぽんぽーん!」
真田「周りは何してたの…」
冬香「え〜目が泳いでた(笑)折角のサービスサービス☆なんだから喜べばいいのにね」
赤鬼「いや、ババア止めろよ」
冬香「ママねー、その後吐いちゃって。それで、怒られた」
赤鬼「は!?なんて」
冬香「信じられないって。あんな当て付けみたいなことして恐ろしい、私がやらせたみたいだろうって」
赤鬼「そうだろ!!!」
冬香「ママは入れないよねって言ってただけだから、入ることにしたのは私だよ」
赤鬼「……ちょっと空気吸ってくる!!!」
赤鬼、二人に背を向ける形で舞台端で深呼吸など。
真田「なんかごめんね、ああ見えて素直だから」
冬香「ピュアですね〜あんな大人に会いたかったな」
真田「賽の河原で毎日子供に接してるから、許せないんだと思う…」
冬香「優しい人もいるもんだ〜」
真田「一応、鬼なんだけどね…」
赤鬼「一応じゃないっす、聞こえてるっす!!!」
冬香「あはははは!」
真田「…」
赤鬼、顔を叩く頭を振るなど気を取り直して、席に戻る。
真田「それで…?」
冬香「そうそれでー。制服時代が終わったら、ほんと行き詰まっちゃって。気付いたら今までの経歴が黒歴史でしかなくて真面目にアイドルとか、ましてや女優とかもう出来なくてさ」
真田「そんな…」
冬香「真面目な事務所は引いちゃうし、テレビの仕事なんかもあるわけなくて。」
赤鬼「話が違うじゃねえかよ…」
冬香「その頃ね、一度AVの話がきたの。
年齢的にもいいんじゃない?って。今までの経歴もプラスになるし、前のファンも喜んで帰ってきそうだしーって。
ママも賛成してたんだけど、でもママの女優の夢を諦めたくなくってさ。ちゃんと頑張るからって断って、お芝居の稽古しながら昼間は色んなコンパニオンやって車の横に立ったり、夜はキャバやったりしてママとも暮らせてたの」
真田「それじゃ休めないでしょう」
冬香「みんなそんなもんだよ。でもいわゆる芸能活動じゃないから、ママ落ち込んじゃってさー」
赤鬼「沈めておけよ!」
冬香「そういうわけにいかないよお、飲めないのに昼間から飲み始めて泣いちゃうし、夜行くのも『あたしを置いていくのね』って泣いちゃうから心配で」
赤鬼「なんだそりゃ…」
冬香「それでねー…その日は太客と同伴だったからどうしても出なきゃで、置いて出ちゃったんだよね。そしたら、酒でクスリいっぱい飲んじゃったみたいで」
赤鬼・真田「…」
冬香「命は大丈夫だったの!でも起きなくて。起きれるように結構色々頑張ったんだけどねえ」
真田「仕事は…?」
冬香「もちろん。むしろ今までより稼がないとで。でも段々うち痩せてきちゃってさ。
胸が痩せたり顔も結構。男は柔らかそうなのがいいのにガリガリすぎて引くって、あんまりコンパニオン入れてもらえなくなっちゃって」
赤鬼「理由知ってんだろ!?」
冬香「まーでも向こうも仕事だから〜(笑) そしたら夜もさー必死過ぎて悲壮感がやばいって店で浮いちゃって、太客には黙ってたから他の子に取られちゃって!やられたー!」
赤鬼「おま そいつここに連れてこい!」
冬香「ぎゃはははは、ねー!つれてきたーい!やっつけて!」
真田「笑い事じゃないよ…」
冬香「そしたらねーママの彼氏とAVの社長がまた来て。病院代稼げるよって」
赤鬼「いやまて、彼氏て」
冬香「そー、いたのー。結婚はしてないけどママがぞっこんで(笑)でね、お金も稼げるし芸能活動だしママが目が覚めたら喜ぶよって言われて、確かにそうかもなあって思って」
赤鬼「んなわけないだろ!」
冬香「まあでもコレには代えられないし。で契約したらさー」
赤鬼「なんだよもうーーー…」
冬香「それがっさーー、ママの彼氏がAV出るならいいよねって、きてー」
真田「なにそれ…」
赤鬼「きてって は!?うそだろ」
冬香「いや、マジマジ。それでさすがにないわーと思って抵抗したら、なんかで殴られて」
赤鬼「なんか?」
冬香「なんか硬いもん。それでこめかみから目の辺りが熱くなって、『あーこれ顔に傷出来ちゃったなあ』って、下がったわー」
真田「痛かったでしょう…」
冬香「意外と大丈夫!」
赤鬼「大丈夫なわけないだろ、それに、その、大丈夫だったのかよ」
冬香「え?あ、それがさーよく覚えてなくて(笑)寝てたっぽい(笑) 起きたら頭痛くてやっぱりおでこから血が出てて」
真田「ひどい…」
冬香「家だったからさー、ママの痛み止め飲んでたら、なーんか無性にママに会いたくなっちゃってさあ」
赤鬼「そりゃ…そうだろ……」
冬香「それでそのままいろいろ薬飲んでたら、気が付いたらこっちに来てて(笑)ウケる」
赤鬼「ウケねーーーーよ!!馬鹿!!」
冬香「あはは、そんでこっち来たらなんか思ってたより人いるしフェスみたいじゃーんと思ってー。ママはまだ生きてるし、もしかして会えたりするのかなー?って。それで聞いてみました!って話でした〜チャンチャン♪」
赤鬼「いやこれ、許せないわ。絶対探そう」
真田「おかわりいれるね…」
冬香「あ、どもでーす。でもほんと、あの世ってこんな賑わってるんだね〜新宿みたい」
赤鬼「いや今はたまたまで…。あっちで病気が流行ったり、戦争が何ヶ所もあったりするところに加えて、今ちょっと向こうで特殊な人を対応中で…」
冬香「特殊な人?」
真田「はいっ、おかわり!!」
赤鬼「あっありがとうございます!わあいボクのお茶。ボクお茶だーいすき」
真田「そんなことより、本気で探すつもりなの?」
冬香「そのつもりだけど、ちょっと人多すぎて(笑)」
赤鬼「起きなくなってからしばらく経ってるなら、もう近くにはいないかもしれないな…どんな人なの」
冬香「えっと、綺麗な人。それで、うーん、なんていうか」
赤鬼「うん」
冬香「そんな感じ」
赤鬼「情報少な!」
冬香「いや、ごめん!あれ?どんな?ママってどんなだ、ヤバイ(笑)」
赤鬼「しっかりしてくれ、俺達も協力して絶対見つけるから」
冬香「ええー?あれー」
赤鬼「渡ってないなら絶対こっち側にいるはずだし、長くいる人なら限られてくるしさ。うーん、顔似てたりしない?」
冬香「いやーうち今はどっちかって言うとパパに似てるみたい」
赤鬼「うーん、顔も手掛かりにならないか〜。あ、そうそう名前は?お母さんの名前」
冬香「名前は、 …やっぱり思い出せない」
赤鬼・冬香「うーん」
真田「あなた、気持ちはわかるけど戻れるうちに戻ったほうがいい。
自分でこっちに来た人は押し戻す力も強いはずなのに、もう欠け始めてるでしょう。戻れなくなる」
赤鬼「うーん、まあそう言うとそうか」
冬香「戻るって…ママ連れ戻せるなら戻りたいって思ってたけど、一人なら別になー、もういっかなー(笑)」
真田「棄てなさい」
冬香「え?」
真田「もうそんな親、棄てなさい。あんたみたいな子はどこで何やっても食べていける。親を棄てて、自分のために今から人生取り戻してきなさい」
冬香「でも…」
真田『大丈夫、なんとかなる。もうママや周りのために頑張っちゃダメ』
冬香「でもそれじゃママは…ママが死んじゃう」
真田「関係ない。死んでもそれはあんたのせいじゃない。もういいの」
冬香「ママ、迎えに来てくれないの…?」
真田「…」
赤鬼「賽の河原で親子が落ち合うのは珍しくて、大体はいいタイミングでお地蔵さまが向こうに連れて行って、向こうで穏やかに過ごして待ってるんだ」
冬香「どうして…私ちゃんと待てるのに」
赤鬼「賽の河原には年齢制限があるんだ。そのくらいの年頃には自分の判断で自分の人生を歩み始めてる目安なんだよ」
冬香「自分の人生…」
真田「親の人生じゃなくて、自分がどう生きたいのかってことだよ」
赤鬼「『これが私の人生でした!』って言えない誰の人生かわからないような状態だと、閻魔様も裁判で困っちゃうんだ。人生はひとりひとつで、記録ではその人のものとして残ってるから、違う人は裁けない」
冬香「私が自分でしてきたことだよ…」
赤鬼「まあそうだけど。もっと楽しくてやりたいこと、めちゃくちゃやってからでも、それこそ寝てるママに往復ビンタしてきてからでも遅くないんだよ」
真田「ふふっ」
冬香「うはっ……あはははは!それいい!それやってママ起こして、寝ぼけてる間にどっか逃げちゃおうかな!」
赤鬼「よしきた!な!そうしろ!」
冬香「マジで〜?できるかなあー」
真田「そうしなさい。そうと決めたら気持ち変わる前に早くいk」
火山が噴火したような轟音。
川向こう遠くに天を貫くほどの火柱。
冬香「な なに? なにあれ」
赤鬼「………やばい」
真田「あれは…火…?まさか」
赤鬼「多分、まさかっすね。まじか」
冬香「なんなの!?火事!?爆発!?」
真田「あんたはいいから走りなさい!今すぐ戻って!」
冬香「なになに!わけわかんない!」
真田「戻れなくなるかもしれない!早く行きなさい!」
冬香「そんな!二人は!?うちだけ逃げるなんてできないよ!」
赤鬼「バカか!これでも鬼だっつの!」
冬香「そうだった!」
真田「じゃああんた、独りじゃなくこの辺りの人も連れて戻りなさい!」
冬香「ええーっ!うちにそんなこと出来ないよ」
真田「あんたは戻る力が強いから迷わないの。皆さーーん!落ち着いてください!緊急事態なので並んでた方も含めて、この人に着いて一旦戻ってください!避難して!」
冬香「あわわ、あの、また、いつか、ねえ!ねえってば!」
真田「いいから、もうママを忘れてしっかり生きて…ほらいきなさい!」
冬香「え」
赤鬼「じゃあ俺は賽の河原に行くから」
真田「私も渡し場に寄ってからそっちにいく!」
赤鬼「ほら行くぞ!皆さんこっちですー!」
赤鬼、真田を見続けている冬香の二の腕を掴んで出ていく。
反対側を見て誘導していた真田、振り返り少し見送ってから慌ただしく反対側にはける。