若者ユウとそれに手を引かれる老婆。
支えられながら二人座る。
孫「ばあちゃん」
祖母「はあい」
孫「夕飯なに食べたい?」
祖母「あんまん」
孫「ばあちゃん、おやつじゃなくて夕飯さ、」
祖母「あんまん」
孫「…」
祖母「にくまん?」
孫「そういうことじゃなくて」
祖母「そうですねえ」
孫「うん…」
祖母「いいですねえ、こんやは ごちそう」
孫「はぁ…」
祖母「うふふふふ」
孫「…」
小犬を抱いた婦人が通りかかる。
婦人「あら、こんにちは」
祖母「はあい、こんにちは」
孫「どうも」
婦人「この間はお野菜ありがとうございました」
孫「あ、いえ、食べ切れないので本当に助かりました、田舎ので すみません」
婦人「とんでもない。スーパーで売ってるじゃがいもなんかと全然味が違くって、美味しかったです」
祖母「かわいいねえ」
孫「いやそんな大袈裟な、親戚も喜びます」
婦人「いやもう、またなんかあったら次は売ってくださいね」
孫「とんでもな(い)」
祖母「かーわいいねえ」
婦人「 (裏声で)“コンニチワー!チョコですヨ!” 今日もご機嫌ですねえ!」
祖母「はあい」
婦人「ほんといつも穏やかでありがたいですねえ、うちのお義母さんなんてこの間も、ここには財布を盗むやつがいる!って騒いじゃって、もう大変」
孫「ああ…それは、なんというか…」
婦人「まあ聞いてはいたから覚悟もしてたんですけどね、ショックですよねー」
孫「そうですよね…」
婦人「本人も辛いんでしょうけどねー、元々ちょっと気難しい人だったしどこまで本気なのかも嫁にはわかりませんしねえ」
祖母「たいへんですねえ」
婦人「まあねー正直色々ありましたから。まあでもうちは施設に入ってもらってのことなんで、ちょっとほっとしてます」
祖母「よかったよかった」
婦人「うちでギスギスしたくないですからねー」
祖母「そうですよねえ」
孫「…」
婦人「…あらっ!こんな話、直接看られてる方に私ったら、やだすみません」
孫「あ、いや、それは別に全然」
婦人「ごめんなさいねえ、あのー、うらやましくて、つい」
祖母「きょうはねえ」
婦人「あらっ、はいはいどうされました!?」
祖母「いいことがあったんです」
婦人「あらーっどうしたの?」
祖母「それが、まごが えで しょうをいただきまして、うふふ」
孫「ばあちゃん、また…」
婦人「あらあ〜!よかったわねえ! ふふふいいのよー」
孫「でももう中学生のときの話で」
婦人「会うたび教えてくれるのよねー」
祖母「あのこはむかしから、そういうところがよくできまして」
孫「やめてよもう」
婦人「お孫さんすごいですねえ!」
祖母「おかげさまでございます。またおつかいとかで みかけたら、なにどぞ、よろしくおねがいします」
婦人「あっ、あ、いえ、あ、はいい、もちろんですー」
孫「…」
婦人「あ、ごめんなさい、ちょっと犬が。もういきますね」
孫「…あ、はいすみません」
婦人「じゃあ、また、ねー!気を付けてくださいね!」
祖母「はい、どうもー」
孫「…」
孫「…ばあちゃん?」
祖母「はあい、どうも」
孫「お茶、飲みなよ」
祖母「あらあ」
水筒からお茶を注ぎ、祖母に渡す。
間
孫「ばあちゃんさ、何度も言ってるけど。」
祖母「はいはい」
孫「ばあちゃんが言っちゃうの仕方ないから、自分もまた言うね」
祖母「はあい」
孫「自分はもう、絵はやめたからさ。賞の話。嬉しいより、つらいよ」
祖母「はあい」
孫「はー…責めずに、でも溜め込まずにって先生に言われたけど…意味あんのかなこれ」
祖母「うふふ」
間
孫「やめたんだよ、もう」
祖母「わあすごい」
孫「……いや、なんかさーー! 大人になったらすごいやつら沢山いてさ、そんなもんなんだよ。なんでこの人が?みたいなのが有名な人と仲良くしてたり、そうかと思えば小学生がもう同じレベルにきたりさあ、無理だよね。全然間に合わない」
祖母「きれいねえ」
孫「こういうのって大人になったら一握りの天才しか100点なんかとれないんだよね、もっと早く知りたかった。そしたらこんな無駄に時間使わなかったのにね」
祖母「ユウ、これはすじ雲、すじ雲というのですよ」
孫「…ばあちゃん?」
祖母「ユウは頑張り屋さんな可愛い子。でもね、私達は何事にもそうして楽しそうに挑んでいる姿が勇敢で嬉しいのですよ」
孫「…」
祖母「私達はそこまで頑張っていた事を喜んでいるのです、素敵な結果に驕らず毎日自分が何をしてここまで積み上げたか、今はそれを繋げていく練習をしていること、忘れないでくださいね」
祖母そっと孫の頬を両手で挟み二度ぺちぺちする。
孫「ばあちゃん…」
祖母「うふふ」
孫「ばあちゃん!」
孫、祖母の肩を掴む。
祖母「……はあい、どうもおせわさまです」
孫「ばあちゃん……うん」
祖母の鼻唄。
祖母「とんぼのめがねは そらいろめがね」
孫「ばあちゃん、ごめん。…忘れないでって言ってくれてたのにね。ばあちゃんは色んなこと忘れても、あの絵のそらやあの日のこと覚えててくれたんだ」
祖母歌っている。
祖母「あおいおそらを とんだから とんだから」
孫「なんか、だんだん人の意見ばっかり気にして、楽しめなくなってたんだよね。それで人のせいにして。
わかってたんだ。なのに、もうやっても無駄だなって、逃げてさ。
うん、決めた…もう少し、やってみる。
ばあちゃん、ありがとう」
祖母「はあい」
孫「なんだかなあ〜、絶対わかってるでしょう」
祖母「あらあら」
孫「はーあ。 よし!帰ろう! ばあちゃん、なに食べたい!?」
祖母「あんまん」
孫「よしきた!」
孫、祖母の前にしゃがみ込み、祖母それにおぶさる。
おぼつかない足取りながらも、二人楽しそうに去っていく。
fin.